死亡保険金は長女が受け取ったのに、預金と土地は未分割のまま申告した事例

父の死亡後、長女は死亡保険金2,500万円を受け取りました。母と長男は「保険金を受け取った分、長女の預金や土地の取り分をどう考えるか」と話しましたが、父名義の財産の分け方は決まりません。

三人は、長女が受け取った保険金と、未分割の預金・土地を分けて相続税を計算し、期限内に申告・納付しました。保険金の受取人が決まっていても、預金と土地の遺産分割が終わったことにはなりません。

※相続人、日付、金額は、保険金と未分割財産の申告上の扱いを説明するためのモデルケースです。債務、葬式費用、生前贈与などはないものとし、土地に小規模宅地等の特例は適用しません。

長女は死亡保険金2,500万円を受け取った

父は2025年11月10日に亡くなりました。相続人は母、長女、長男の3人で、全員が同日に父の死亡を知りました。

父は生前、長女を死亡保険金の受取人とする生命保険に加入し、保険料を全額負担していました。長女は保険会社に請求し、2,500万円を受け取りました。

保険契約に関する事項この事例の内容
被保険者父
保険料の負担者父
契約上の死亡保険金受取人長女
長女が受け取った保険金2,500万円

長女は保険金を受け取れましたが、父が残した預金と土地を誰が取得するかは、まだ決まっていませんでした。

預金と土地の分け方は決まらなかった

父名義の財産には、預金3,000万円と、相続税評価額6,000万円の土地がありました。

父名義の財産相続税評価額申告期限時点の状態
預金3,000万円取得者は未決定
土地6,000万円取得者は未決定
合計9,000万円全額が未分割

母は土地を引き継ぎたいと考えていました。一方、母と長男からは、長女が保険金を受け取ったことも踏まえて預金と土地の取り分を考えたい、という意見が出ます。長女は、保険金は契約上の受取人として受け取ったものであり、預金や土地とは分けて考えたいと伝えました。

三人は話し合いを続けましたが、預金と土地の取得者について合意できません。申告期限の2026年9月10日が近づいたため、分割の成立を待たずに相続税申告を進めることにしました。遺産が未分割でも、申告期限は延びません。

保険金は遺産分割の対象にしなかった

この事例の死亡保険金は、契約上の受取人である長女が受け取ったものです。預金や土地のように、これから三人で取得者を決める財産には含めません。

財産誰が取得したかこの事例での扱い
死亡保険金2,500万円長女が受領預金・土地の遺産分割の対象にしない
預金3,000万円未決定未分割として申告する
土地6,000万円未決定未分割として申告する

ただし、遺産分割の対象ではないことと、相続税の計算から外れることは別です。父が保険料を負担した死亡保険金は、相続税では「相続により取得したものとみなされる財産」として扱います。

また、長女が受け取った保険金を後から母や長男へ渡す場合、単に預金や土地の遺産分割として扱うことはできず、贈与税の問題が生じ得ます。この事例では、長女は保険金を母や長男へ渡していません。

保険金のうち1,000万円を相続税の計算に入れた

法定相続人は母、長女、長男の3人です。相続人が受け取った死亡保険金の非課税限度額は、500万円×3人=1,500万円となります。この事例で保険金を受け取った相続人は長女だけです。

長女の死亡保険金金額
受取額2,500万円
非課税限度額▲1,500万円
相続税の課税価格に入れる額1,000万円

保険金2,500万円の全額を課税価格に入れるわけではありません。また、課税対象となる1,000万円を三人の法定相続分で分けることもしません。受取人である長女の課税価格に1,000万円を加えます。

未分割財産と保険金を合わせて税額を計算した

まず、未分割の預金・土地9,000万円と、保険金の課税対象額1,000万円を合わせます。

相続税の総額を求める計算金額
未分割の預金・土地9,000万円
保険金の課税対象額1,000万円
課税価格の合計1億円
基礎控除:3,000万円+600万円×3人▲4,800万円
課税遺産総額5,200万円

相続税の総額を求めるため、課税遺産総額5,200万円を法定相続分で仮に分けます。母が2,600万円、長女と長男が各1,300万円です。

相続人総額計算のための取得金額税率等による計算算出額
母2,600万円15%、控除50万円340万円
長女1,300万円15%、控除50万円145万円
長男1,300万円15%、控除50万円145万円
合計5,200万円—630万円

この340万円・145万円・145万円は、相続税の総額630万円を求める途中の数字です。そのまま各人の当初の納付額にはなりません。 次に、630万円を各人の課税価格に応じて配分します。

預金と土地9,000万円は未分割のため、申告上は母に2分の1、長女と長男に各4分の1を割り当てて計算します。さらに長女には、保険金の課税対象額1,000万円を加えます。

相続人未分割財産の申告上の計算額保険金の課税対象額課税価格当初の税額
母4,500万円0円4,500万円283万5,000円
長女2,250万円1,000万円3,250万円204万7,500円
長男2,250万円0円2,250万円141万7,500円
合計9,000万円1,000万円1億円630万円

長女と長男の未分割財産の計算額は、どちらも2,250万円です。それでも当初の税額が異なるのは、長女の課税価格には保険金の課税対象額1,000万円が加わるためです。

この表の「未分割財産の申告上の計算額」は、預金や土地を実際にその金額だけ取得したことを示すものではありません。

三人は期限内に申告・納付した

三人は2026年9月10日までに申告し、母が283万5,000円、長女が204万7,500円、長男が141万7,500円を、それぞれ期限内に納付しました。

この事例では、母と長男には納税に充てられる自己資金がありました。長女は受け取った保険金から自分の納税資金を確保しました。長女の保険金が、自動的に母と長男の納税資金になるわけではありません。

また、母の課税価格に含めた未分割財産4,500万円は、母が実際に取得した財産ではありません。預金も土地も未分割なので、母の当初申告では、それらについて配偶者の税額軽減を適用していません。

母は後日の分割に備え、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しました。見込書を提出しただけで、当初の税額が直ちに減るわけではありません。

申告後も預金と土地の分割が残った

三人が申告・納付を終えた後も、預金3,000万円と土地6,000万円の取得者は決まっていません。長女が死亡保険金2,500万円を受け取ったという事実も、預金と土地の申告を済ませたことで変わりません。

今後、預金と土地の分割が成立すれば、三人は実際の取得額に基づいて相続税を計算し直します。当初申告より税額が増える人は修正申告を、減る人は更正の請求を検討します。更正の請求には、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内という期限があります。

この事例では、最終的に誰が預金や土地を取得するかは、まだ決まっていません。分割後の各人の税額も、現時点では確定していません。

この事例のポイント

長女が死亡保険金を受け取っていても、父名義の預金と土地の遺産分割が済んだことにはなりません。三人は、受取人が決まっている保険金と、取得者が決まっていない財産を分けて申告しました。

保険金2,500万円については、非課税限度額1,500万円を差し引いた1,000万円を長女の課税価格に加えます。預金と土地9,000万円については、未分割のまま申告上の計算を行い、後日の分割に備えます。

参考情報

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