遺産分割調停が申告期限から3年を超えそうになり、特例のための承認申請を行った事例

2025年7月、父の遺産分割調停はまだ続いていました。

父が亡くなったのは2022年1月10日です。相続税は2022年11月10日に未分割のまま申告し、母・長男・長女の3人で合計2,200万円を納付していました。

当初申告では「申告期限後3年以内の分割見込書」も提出しています。

しかし、調停が続いているからといって、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できる可能性が、いつまでも自動的に残るわけではありません。

本件で確認すべき3年は、父が亡くなってから3年ではなく、相続税の申告期限から3年です。その日は2025年11月10日に迫っていました。

そこで、3年を迎える前に当初申告書と調停の進行状況を確認し、必要書類を準備しました。そして、3年を経過した後の所定の期間内に、税務署長へ承認申請を行いました。

その後、調停が成立し、母と長女は更正の請求を、長男は修正申告と追加納付を行いました。

今回のケースはモデルケースです

この記事は、遺産分割調停が相続税の申告期限から3年を超える場合の手続を説明するため、複数の相談事例や税務実務上の論点をもとに再構成したモデルケースです。

家族構成、財産の内容、評価額、日付、調停の経過、税額などは、実際の案件を特定できないように変更しています。

税額や手続の結果も、記事の内容を分かりやすくするために設定したモデルです。

実際に承認を受けられるか、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できるかは、遺産が未分割となっている理由、手続の進行状況、提出書類、分割後の取得財産などによって異なります。

調停中であることだけで、必ず承認されるわけではありません。

相続人は母・長男・長女の3人

父は2022年1月10日に亡くなりました。

遺言書はなく、相続人は母、長男、長女の3人です。

相続人 父との関係 法定相続分
母 配偶者 2分の1
長男 子 4分の1
長女 子 4分の1

母は、父と暮らしていた自宅に住み続けることを希望していました。

長男は、以前から管理を手伝っていた賃貸不動産を取得したいと考えていました。

長女は、不動産ではなく、預貯金を中心に取得することを希望していました。

母が自宅を取得することには大きな異論がありませんでしたが、賃貸不動産の評価と、長男・長女の取得額をどのように調整するかについて意見が一致しませんでした。

話合いだけでは合意できず、長女は2022年8月に家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てました。

相続財産1億8,000万円の分け方が決まらなかった

父の相続財産は、次のとおりです。

財産 相続税評価額 状況
自宅土地 5,000万円 母が居住
自宅建物 1,000万円 母が居住
賃貸不動産 7,000万円 長男が取得を希望
預貯金 5,000万円 分割方法が未確定
合計 1億8,000万円 -

このモデルケースでは、債務、葬式費用、過去の贈与などはないものとします。

母が取得を希望する自宅土地については、小規模宅地等の特例を適用できる可能性がありました。

母の取得額によっては、配偶者の税額軽減を受けられる可能性もありました。

しかし、相続税の申告期限までに遺産分割が成立しなかったため、当初申告では、これらの特例を適用できませんでした。

未分割のまま合計2,200万円を申告・納付した

相続開始から当初申告までの経過は、次のとおりです。

時期 出来事
2022年1月10日 父が死亡
2022年春から夏 遺産分割協議を実施
2022年8月 家庭裁判所へ遺産分割調停を申立て
2022年11月10日 未分割のまま相続税を申告・納付

遺産分割協議や調停が終わっていなくても、相続税の申告・納付期限は延びません。

そこで、3人は、法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税を申告しました。

相続人は3人であるため、基礎控除額は次のとおりです。

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

相続財産1億8,000万円から基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税遺産総額は1億3,200万円です。

1億8,000万円-4,800万円=1億3,200万円

相続税の総額は、この課税遺産総額を法定相続分で取得したものとして計算します。

相続人 法定相続分に応じた取得額 税額計算
母 6,600万円 6,600万円×30%-700万円=1,280万円
長男 3,300万円 3,300万円×20%-200万円=460万円
長女 3,300万円 3,300万円×20%-200万円=460万円
合計 1億3,200万円 2,200万円

家族全体の相続税は2,200万円となりました。

未分割の状態では、この相続税総額を法定相続分に応じて各相続人へ割り振ります。

相続人 法定相続分 当初納付額
母 2分の1 1,100万円
長男 4分の1 550万円
長女 4分の1 550万円
合計 - 2,200万円

母は1,100万円、長男と長女はそれぞれ550万円を納付しました。

当初申告で「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出した

当初の相続税申告書には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しました。

これは、申告期限後3年以内に遺産分割が成立した場合に、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用を受ける可能性を残すための書類です。

ただし、この書類を提出した時点で、特例の適用が確定したわけではありません。

また、分割見込書を提出しただけで、申告期限から3年を超えた後も無期限に特例を適用できるわけではありません。

当初申告で行ったのは、未分割の状態で相続税を申告・納付し、将来の特例適用に備えて分割見込書を提出するところまでです。

実際の取得財産も、各相続人の最終的な税額も、この時点では確定していませんでした。

調停が続いても、税務上の3年は止まらなかった

2023年から2025年にかけて、家庭裁判所で調停期日が重ねられました。

母が自宅を取得する方向には大きな異論がありませんでしたが、長男が取得を希望する賃貸不動産の評価や、長女が取得する預貯金の金額について話合いが続きました。

2025年夏になっても、調停成立の見通しは立っていませんでした。

家庭裁判所で調停が続いていても、相続税に関する期限が自動的に止まるわけではありません。

裁判所における遺産分割の手続と、税務署に対して行う相続税の手続は、別に管理する必要があります。

本件で基準となる日は、次の2日です。

項目 日付
相続税の申告期限 2022年11月10日
申告期限から3年を経過する日 2025年11月10日

確認すべき3年は、父が亡くなった2022年1月10日からではありません。

相続税の申告期限である2022年11月10日から3年です。

3年経過の4か月前から確認を始めた

2025年7月、税理士は当初の相続税申告書と調停の進行状況を確認しました。

確認した事項は、次のとおりです。

  • 相続税の当初申告期限
  • 申告期限から3年を経過する日
  • 3年以内に調停が成立する可能性
  • 当初申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しているか
  • 現在も調停が続いていることを示す資料があるか
  • 未分割となっている財産の範囲
  • 遺産分割が成立していない理由
  • 承認申請に必要となる書類
  • 承認申請書を提出できる期間

2025年7月の時点では、3年を経過する日まで約4か月ありました。

しかし、次回以降の調停期日とそれまでの話合いの状況から、2025年11月10日までに調停が成立するとは限らない状態でした。

そこで、調停成立を待ち続けるのではなく、3年を超えた場合に必要となる税務上の手続の準備を始めました。

2025年9月から申請資料を準備した

本件で準備した資料は、次のとおりです。

  • 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書
  • 遺産分割調停の申立書の写し
  • 調停事件が係属していることを確認できる資料
  • 調停期日通知書
  • 調停の進行状況が分かる資料
  • 未分割となっている財産の一覧
  • 当初提出した相続税申告書の控え
  • 申告期限後3年以内の分割見込書の控え
  • 遺産分割が成立していない理由と今後の見込みを整理した書面

調停中であると口頭で説明するだけでなく、調停の申立てと継続状況を客観的に確認できる資料をそろえました。

この手続の正式名称は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請」です。

調停中であることを示す資料を提出しても、当然に承認されるわけではありません。

遺産が未分割となっている理由や手続の進行状況などをもとに、税務署長が承認の可否を判断します。

3年経過後の提出期間内に承認申請を行った

本件の提出期限を整理すると、次のとおりです。

項目 日付
相続税の申告期限 2022年11月10日
申告期限から3年を経過する日 2025年11月10日
承認申請書の提出日 2025年12月10日
本件の提出期限 2026年1月13日

承認申請書は、相続税の申告期限から3年を経過する日の翌日から2か月以内に提出する必要があります。

本件では、2025年11月10日に3年を経過したため、その翌日の2025年11月11日から提出期間が始まりました。

2か月後の2026年1月10日は土曜日で、その後の1月12日も休日です。そのため、本件の提出期限は2026年1月13日となります。

家族は、提出期限を待たず、2025年12月10日に承認申請書と添付資料を提出しました。

3年を経過する前に、期限、未分割の理由、調停の状況、必要書類を確認して準備を終え、3年を経過した後の提出期間内に申請したことになります。

承認、調停成立、税額是正は別の手続だった

2026年2月、税務署長から承認を受けました。

しかし、この時点では、遺産分割調停はまだ成立していません。

承認を受けただけで、母に配偶者の税額軽減が適用され、自宅土地に小規模宅地等の特例が適用されるわけでもありません。

本件では、その後の手続を次の4段階に分けて進めました。

  1. 申告期限から3年を超えることについて承認を受ける
  2. 遺産分割調停を成立させる
  3. 実際の取得財産に基づいて特例の要件と税額を確認する
  4. 更正の請求または修正申告により当初申告を是正する

実際の経過は、次のとおりです。

時期 出来事
2025年12月10日 承認申請書を提出
2026年2月 税務署長の承認
2026年7月15日 遺産分割調停が成立
2026年8月から9月 特例の適用要件と相続税額を再確認
2026年9月30日 更正の請求、修正申告、追加納付

承認申請によって遺産分割が成立するわけでも、相続税が自動的に還付されるわけでもありません。

調停成立後に、別途、特例の要件確認と税額是正が必要でした。

母が自宅、長男が賃貸不動産、長女が預貯金を取得した

2026年7月15日、次の内容で遺産分割調停が成立しました。

相続人 取得財産 実際の取得額
母 自宅土地5,000万円、自宅建物1,000万円、預貯金2,000万円 8,000万円
長男 賃貸不動産 7,000万円
長女 預貯金 3,000万円
合計 - 1億8,000万円

母は、住み続けていた自宅土地と自宅建物に加え、今後の生活資金として預貯金2,000万円を取得しました。

長男は、以前から管理を手伝い、取得を希望していた賃貸不動産を取得しました。

長女は不動産を取得せず、預貯金3,000万円を取得しました。

この分割結果をもとに、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減の要件を確認し、相続税を再計算しました。

小規模宅地等の特例により財産額が4,000万円減少した

母が取得した自宅土地の相続税評価額は5,000万円でした。

このモデルケースでは、自宅土地が特定居住用宅地等に該当し、母が取得したことによって小規模宅地等の特例の要件を満たすものとします。

自宅土地の評価額は80%減額されます。

5,000万円-5,000万円×80%=1,000万円

財産 当初評価額 特例適用後
自宅土地 5,000万円 1,000万円
自宅建物 1,000万円 1,000万円
賃貸不動産 7,000万円 7,000万円
預貯金 5,000万円 5,000万円
合計 1億8,000万円 1億4,000万円

特例適用後の財産額は1億4,000万円です。

ここから基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税遺産総額は9,200万円となります。

1億4,000万円-4,800万円=9,200万円

特例適用後の相続税総額は1,310万円になった

課税遺産総額9,200万円を法定相続分で取得したものとして、相続税の総額を計算します。

相続人 法定相続分に応じた取得額 税額計算
母 4,600万円 4,600万円×20%-200万円=720万円
長男 2,300万円 2,300万円×15%-50万円=295万円
長女 2,300万円 2,300万円×15%-50万円=295万円
合計 9,200万円 1,310万円

次に、この1,310万円を、各相続人の特例適用後の課税価格に応じて割り振ります。

相続人 特例適用後の課税価格 配偶者の税額軽減前の税額
母 4,000万円 約374万円
長男 7,000万円 655万円
長女 3,000万円 約281万円
合計 1億4,000万円 1,310万円

母の実際の取得額は8,000万円ですが、自宅土地について4,000万円の評価減があるため、特例適用後の課税価格は4,000万円です。

母は配偶者の税額軽減により0円になった

母の実際の取得額は、自宅土地5,000万円、自宅建物1,000万円、預貯金2,000万円の合計8,000万円です。

父の相続財産1億8,000万円に対する母の法定相続分相当額は9,000万円です。

母の取得額8,000万円は法定相続分相当額9,000万円以下であるため、このモデルケースでは、母の相続税約374万円は配偶者の税額軽減によって0円になります。

この結果、家族全体の最終的な相続税額は、長男の655万円と長女の約281万円を合わせた約936万円となりました。

母と長女に還付、長男に約105万円の追加納付が生じた

当初納付額と分割後税額を比較すると、次のようになります。

相続人 当初納付額 分割後税額 還付額または追加納付額
母 1,100万円 0円 約1,100万円還付
長男 550万円 655万円 約105万円追加納付
長女 550万円 約281万円 約269万円還付
合計 2,200万円 約936万円 約1,264万円減少

母は、配偶者の税額軽減によって分割後税額が0円となったため、当初納付した約1,100万円の還付を求めました。

長女は、分割後税額が約281万円となったため、当初納付額550万円との差額である約269万円の還付を求めました。

長男は、分割後の実際の取得割合に応じて税額を再計算した結果、当初納付額550万円より約105万円多い655万円となりました。

そのため、長男は修正申告を行い、約105万円を追加納付しました。

分割成立後の手続は相続人ごとに異なった

相続人 分割成立後の手続
母 更正の請求を行い、還付を受ける
長男 修正申告を行い、約105万円を追加納付する
長女 更正の請求を行い、還付を受ける

遺産分割後に相続税を再計算しても、すべての相続人に還付が生じるとは限りません。

当初納付額が分割後税額を上回る母と長女は、更正の請求を行いました。

分割後税額が当初納付額を上回る長男は、修正申告と追加納付を行いました。

本件では、2026年9月30日に、それぞれの手続を行いました。

この事例から分かること

未分割のまま相続税を申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しても、特例適用の可能性が無期限に残るわけではありません。

遺産分割調停が長期化している場合は、調停期日だけでなく、相続税の申告期限から3年となる日を別に管理する必要があります。

本件では、2025年11月10日に3年を迎えることを確認し、その約4か月前から当初申告書、調停の進行状況、必要書類を確認しました。

そのうえで、3年を経過した後の提出期間内である2025年12月10日に、承認申請を行いました。

承認後も、調停成立、特例の要件確認、相続税の再計算、更正の請求または修正申告という手続が残っています。

税理士は、次の期限と手続を分けて整理しました。

  • 申告期限から3年を経過する日
  • 承認申請書を提出できる期間
  • 調停成立後に特例の要件を確認する時期
  • 更正の請求または修正申告を行う時期

遺産分割調停が申告期限から3年を超える可能性がある場合は、3年を経過してから対応を考えるのでは間に合わないことがあります。

3年を迎える前に準備を始め、3年を経過した後の提出期間内に必要な申請を行うことが重要です。

遺産分割が長期化し、3年の期限が近づいている方へ

未分割のまま相続税を申告した後も、調停や審判の進行状況とは別に、税務上の期限を管理する必要があります。当初申告書、分割見込書、現在の手続状況を確認し、必要となる申請と分割後の申告手続を整理します。

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