預金だけ先に分け、土地は未分割のまま相続税を申告した事例

父が残した財産は、預金4,000万円と土地2筆8,000万円。相続人は母、長男、長女の3人です。

長女は土地より現金を希望し、3人は預金を先に分けることで合意しました。一方、母と長男は土地の分け方を決められません。そこで、預金は合意した金額で受け取り、土地は未分割のまま相続税の期限を迎えることになりました。

この事例のポイントは、先に分けた預金と、まだ分けていない土地では、当初申告での扱いが異なることです。

※相続人、日付、金額は手続きと税額の変化を説明するためのモデルケースです。債務、葬式費用、生前贈与などはないものとし、土地に小規模宅地等の特例は適用しません。

長女は預金を希望し、母と長男は土地の分け方で迷っていた

父は2025年8月18日に亡くなりました。家族も同日に死亡を知っています。相続税の申告・納付期限は、10か月後の2026年6月18日です。

財産は次の3つでした。

財産相続税評価額
預金4,000万円
土地A3,000万円
土地B5,000万円
合計1億2,000万円

母は土地Aを残したいと考え、長男は土地Bを取得したいと考えていました。しかし、土地の価値をどう捉え、最終的な取得額をどう決めるかについて、まだ合意できません。

長女は土地を取得するつもりがなく、現金を早く受け取りたいと希望しました。最終的な取得額が、自分の法定相続分に相当する3,000万円を下回る可能性も理解したうえで、預金2,500万円を受け取る案を示しました。

土地の協議を待っていると、預金の払戻しも納税資金の準備も遅れます。3人はまず、合意できる預金についてだけ遺産分割協議を成立させることにしました。

預金は法定相続分と異なる割合で先に分けた

相続人が母と子2人の場合、法定相続分は母が2分の1、長男と長女が各4分の1です。預金4,000万円をその割合で分ければ、母2,000万円、長男と長女が各1,000万円になります。

しかし、3人が合意した預金の配分は異なります。

相続人法定相続分による預金額合意した預金額
母2,000万円1,000万円
長男1,000万円500万円
長女1,000万円2,500万円

全員の合意により、預金をこのように分けました。遺産分割協議書には対象口座と各人の取得額を記載し、土地A・Bについてはまだ分割を決めていないことを明確にしました。

その後、銀行の相続手続きを進め、3人は2026年5月28日までに合意した預金を受け取りました。

ここで成立したのは、預金についての一部分割です。預金の取得割合を、そのまま土地にも当てはめたわけではありません。

土地が未分割でも申告と納付は必要

預金を受け取った後も、母と長男は土地の分け方について協議を続けました。しかし、申告期限までに合意する見通しは立ちません。

土地が未分割であっても、相続税の申告・納付期限は延びません。3人は2026年6月12日に申告し、6月15日に納付しました。

当初申告では、分割済みの預金は合意に基づく各人の取得額で計算します。一方、未分割の土地8,000万円は、法定相続分で取得したものとして暫定的に計算しました。

相続人分割済みの預金未分割土地の申告上の額当初申告上の取得額
母1,000万円4,000万円5,000万円
長男500万円2,000万円2,500万円
長女2,500万円2,000万円4,500万円
合計4,000万円8,000万円1億2,000万円

長女が実際に受け取った預金は2,500万円です。表の「当初申告上の取得額」4,500万円との差額2,000万円は、未分割土地について税額を計算するために置いた金額であり、長女が土地や現金を追加で受け取ったことを意味しません。

納税資金は確保できたが、税額は預金の配分どおりにはならない

このモデルの基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人3人=4,800万円です。財産1億2,000万円から差し引くと、課税遺産総額は7,200万円になります。

課税遺産総額を法定相続分で分けて税率を適用すると、相続税の総額は960万円です。この総額を、先ほどの当初申告上の取得額に応じて3人へ割り振ります。

母の申告上の取得額5,000万円には、未分割土地の4,000万円が含まれています。しかし、期限までに母が分割によって実際に取得した財産は預金1,000万円です。そのため、この時点では未分割土地に対応する配偶者の税額軽減は受けられません。

相続人控除前の税額配偶者の税額軽減当初の納付額
母400万円80万円320万円
長男200万円なし200万円
長女360万円なし360万円
合計960万円80万円880万円

3人とも、先に受け取った預金から当初の相続税を納付できました。納付後の預金は母680万円、長男300万円、長女2,140万円です。

ただし、長女の預金受取額が最も多いからといって、税額も預金の割合だけで決まるわけではありません。当初の税額には、各人へ暫定的に割り振った未分割土地も反映されています。

また、申告期限までに分けられなかった土地について、分割後に配偶者の税額軽減を受けられるよう、当初申告には「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しました。

申告後、土地は母と長男が取得した

申告後、家族は土地の資料とそれぞれの利用希望を改めて確認しました。2026年8月20日、3人全員が、母が土地A、長男が土地Bを取得し、長女は土地を取得しない内容で合意します。

最終的な取得額は次のとおりです。本事例では、分割を考える際に家族が用いた土地の価額と相続税評価額を同額としています。

相続人預金土地最終取得額
母1,000万円土地A・3,000万円4,000万円
長男500万円土地B・5,000万円5,500万円
長女2,500万円なし2,500万円

長女の取得額は法定相続分に相当する3,000万円より少なくなりましたが、これは土地も含めた最終的な分け方について、3人が改めて合意した結果です。預金の一部分割をした時点で、長女の土地に関する権利まで自動的に確定したわけではありません。

土地の分割後、3人の税額が変わった

財産全体に対する相続税の総額960万円は変わりません。しかし、最終的な取得額が変わったため、各人への税額の割振りを計算し直します。

母が実際に取得した財産は、預金と土地を合わせて4,000万円です。このモデルでは、その全額が配偶者の税額軽減の範囲内に収まり、母の最終的な納付額は0円となります。

相続人当初の納付額分割後の納付額差額と手続き
母320万円0円更正の請求により320万円の還付を求める
長男200万円440万円修正申告をして240万円を追加納付する
長女360万円200万円更正の請求により160万円の還付を求める

母と長女は2026年9月10日に更正の請求をし、長男は同日に修正申告と追加納付をしました。分割に伴う更正の請求には、原則として分割があったことを知った日の翌日から4か月以内という期限があります。還付は、請求書を提出しただけで直ちに確定するものではなく、税務署による確認を経ます。

当初納付額の合計880万円に対し、分割後の納付額の合計は640万円です。この差240万円は、母が後から分割を受けた土地にも配偶者の税額軽減を適用できるようになったことによります。

この事例のポイント

預金だけでも相続人全員で分け方に合意できれば、土地の協議を続けながら納税資金を確保できる場合があります。預金を法定相続分と違う割合で分けることも可能です。

一方、先に分けた預金と未分割の土地を混同すると、当初申告の取得額や税額を読み違えます。預金について何を合意し、土地について何を決めずに残したのかを、書面と申告の両方で明確にする必要があります。

土地の分割後には、当初申告の税額が増える人も減る人もいます。預金を受け取って納税できたところで手続きが終わるわけではなく、最終的な分割に合わせた修正申告や更正の請求まで見通しておくことが大切です。

参考情報

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