家族仲は悪くないのに遺産分割が終わらない――申告後に6,000万円の財産が見つかった事例

相続税の申告期限までに確認できた父の財産は、1億4,000万円でした。

相続人は長男、長女、次女の3人です。3人の間に争いはなく、誰かが資料を隠していたわけでもありません。

しかし、父が複数の金融機関や会社と取引していたため、財産調査が申告期限までに終わりませんでした。

3人は、判明している財産だけを先に分けることも検討しました。それでも、後から高額な財産が見つかれば、既に決めた分け方を見直したくなる可能性があります。

そこで、判明している1億4,000万円についても遺産分割を確定させず、未分割の状態で相続税を申告しました。

申告後、定期預金1,500万円、証券口座1,500万円、非上場株式3,000万円が見つかりました。

後から判明した財産は合計6,000万円です。父の相続財産は、最終的に2億円になりました。

家族全体の相続税は、当初申告の1,240万円から2,460万円へ増えました。

ただし、財産が見つかるたびに修正申告をしたわけではありません。非上場株式の評価額まで確定した後、2027年3月25日に、後から判明した6,000万円をまとめて1回の修正申告に反映しました。

その後、財産調査が完了してから遺産分割を成立させ、長男は追加納付、長女と次女は更正の請求を行いました。

今回のケースはモデルケースです

この記事は、相続人間に争いはないものの、財産調査が終わらないため遺産分割を確定できなかった相続について説明するため、複数の相談事例や実務上の論点をもとに再構成したモデルケースです。

家族構成、財産の内容、金融機関、会社名、評価額、日付などは、実際の案件を特定できないように変更しています。

税額や手続の結果も、記事の内容を分かりやすくするために設定したモデルです。実際の相続税額や必要な手続は、相続人、財産、債務、遺言、過去の贈与、特例の適用などによって異なります。

相続人は長男・長女・次女の3人

父が2026年1月20日に亡くなりました。

母は父より前に亡くなっており、相続人は長男、長女、次女の3人です。

相続人 父との関係 法定相続分
長男 子 3分の1
長女 子 3分の1
次女 子 3分の1

遺言書はありませんでした。

3人は、父の財産を公平に分けたいと考えていました。家族関係に大きな問題はなく、遺産分割を拒んでいる人もいませんでした。

ただし、父は生前、財産の全体像を一覧にしていませんでした。

長男が把握していた不動産のほかに、複数の金融機関との取引がありました。過去の郵便物から、証券会社や非上場会社との関係もあることが分かりました。

このため、どの財産を誰が取得するかを決める前に、まず父の財産をすべて確認する必要がありました。

申告期限までに判明した財産は1億4,000万円だった

相続税の申告期限までに確認できた財産は、次のとおりです。

財産 相続税評価額
自宅土地・建物 5,000万円
賃貸不動産 4,500万円
上場株式 2,500万円
預貯金 2,000万円
合計 1億4,000万円

この記事では、税額計算を分かりやすくするため、債務、葬儀費用、過去の贈与、税額控除、小規模宅地等の特例はないものとします。

長男は賃貸不動産の管理を手伝っていたため、賃貸不動産を取得したいと考えていました。

長女は自宅を売却せずに残したいと考え、次女は換金しやすい上場株式や預貯金を中心に取得したいと希望していました。

この時点の1億4,000万円だけを見れば、3人で分割案を作ることは可能でした。

しかし、父の取引先や郵便物を確認すると、ほかにも財産がある可能性を否定できませんでした。

そのため、申告期限までに遺産分割を成立させることは見送りました。

なぜ、判明している財産だけでも分割しなかったのか

3人の間に争いはなく、判明している1億4,000万円の財産について、いったん取得者を決めることもできました。

しかし、父には、ほかにも金融機関との取引や非上場株式がある可能性がありました。まだ確認できていない財産の金額によっては、判明済み財産の分け方も見直す必要があります。

一度成立した遺産分割は、後から別の財産が見つかったという理由だけで、自由に組み替えられるものではありません。

後から見つかった財産だけを追加で分けるのであれば、通常は遺産分割として扱われます。

一方、後から見つかった財産を含めて公平を取り直すため、既に長男が取得した不動産を長女へ移すなど、分割済み財産の取得者まで変更すると、相続人間の贈与や譲渡として扱われる可能性があります。

今回、後から見つかる可能性があった財産は、少額とは限りませんでした。

そのため、3人は、判明済み財産だけを急いで分割するのではなく、財産調査が終わるまで全体を未分割のままにしました。

これは、話合いがまとまらなかったからではありません。

後から高額な財産が判明しても、既に分けた財産を動かさずに済むようにするための判断でした。

財産調査が終わらなくても申告期限は延びない

父が死亡したのは2026年1月20日です。

相続税の申告・納付期限は2026年11月20日でした。

財産調査や遺産分割が終わっていなくても、相続税の申告期限は延びません。

相続人は3人であるため、基礎控除額は次のとおりです。

3,000万円+600万円×3人=4,800万円

申告期限までに判明した財産1億4,000万円から基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税遺産総額は9,200万円になります。

相続税の総額は、課税遺産総額を法定相続分で取得したものとして計算します。

相続人 法定相続分に応じた取得額 税額計算
長男 約3,066万6,667円 約3,066万6,667円×20%-200万円=約413万3,333円
長女 約3,066万6,667円 約3,066万6,667円×20%-200万円=約413万3,333円
次女 約3,066万6,667円 約3,066万6,667円×20%-200万円=約413万3,333円
合計 9,200万円 1,240万円

未分割の状態では、長男、長女、次女がそれぞれ3分の1を取得したものとして、相続税の総額を割り振りました。

相続人 法定相続分 当初納付額
長男 3分の1 約413万3,333円
長女 3分の1 約413万3,333円
次女 3分の1 約413万3,334円
合計 - 1,240万円

3人は、2026年11月20日までに未分割の状態で相続税を申告し、それぞれの当初納付額を納付しました。

未分割でも期限までに申告・納付が必要であることは、国税庁の「相続財産が分割されていないときの申告」でも説明されています。

申告後に1,500万円の定期預金が見つかった

相続税申告後の2026年12月5日、父宛ての郵便物を整理していたところ、申告に含めていない金融機関の案内が見つかりました。

残高証明書と取引履歴を取り寄せ、2026年12月25日、相続開始日時点で1,500万円の定期預金があったことを確認しました。

この時点で、判明した相続財産は1億5,500万円になります。

しかし、家族はすぐに修正申告をしませんでした。

郵便物の確認から、ほかにも証券会社との取引や非上場株式がある可能性が残っていたためです。

定期預金だけを追加して修正申告をしても、その後さらに財産が見つかれば、再び修正申告が必要になります。

そこで、税務署から照会や調査を受けている状況ではないことも確認しながら、残りの財産調査を続けました。

証券口座と非上場株式も後から判明した

2027年1月25日、別の証券会社に相続開始日時点で1,500万円の上場株式があったことを確認しました。

さらに、2027年2月、父が以前勤務していた非上場会社の株式を保有していたことが分かりました。

非上場株式は、株数が分かっただけでは相続税評価額を確定できません。

会社から決算書、株主名簿、法人税申告書などを取り寄せ、株式の評価を行いました。

2027年3月10日、非上場株式の相続税評価額を3,000万円と確定しました。

申告後に判明した財産は、次のとおりです。

判明した財産 確認日 相続税評価額
定期預金 2026年12月25日 1,500万円
証券口座の上場株式 2027年1月25日 1,500万円
非上場株式 2027年3月10日 3,000万円
合計 - 6,000万円

当初申告に含めた1億4,000万円と合わせると、父の相続財産は2億円になりました。

後から判明した6,000万円をまとめて1回の修正申告に反映した

非上場株式の評価額が確定した後、相続税を再計算しました。

相続財産2億円から基礎控除額4,800万円を差し引くと、課税遺産総額は1億5,200万円になります。

相続人 法定相続分に応じた取得額 税額計算
長男 約5,066万6,667円 約5,066万6,667円×30%-700万円=820万円
長女 約5,066万6,667円 約5,066万6,667円×30%-700万円=820万円
次女 約5,066万6,667円 約5,066万6,667円×30%-700万円=820万円
合計 1億5,200万円 2,460万円

家族全体の相続税は、当初申告の1,240万円から2,460万円へ増えました。

増加額は1,220万円です。

未分割の状態では、3人がそれぞれ3分の1を取得したものとして税額を割り振るため、修正後の税額は1人820万円になります。

相続人 当初納付額 修正後税額 追加納付額
長男 約413万3,333円 820万円 約406万6,667円
長女 約413万3,333円 820万円 約406万6,667円
次女 約413万3,334円 820万円 約406万6,666円
合計 1,240万円 2,460万円 1,220万円

3人は、2027年3月25日に、後から判明した6,000万円をまとめて修正申告し、追加の相続税を納付しました。

本件では、定期預金、証券口座、非上場株式が順次判明しましたが、各財産が見つかるたびに3回の修正申告をしたわけではありません。

非上場株式の評価額まで確定した時点で、後から判明した財産をまとめて1回の修正申告に反映しました。

ただし、税務署から照会や税務調査を受けている場合、調査により更正されることが見込まれる場合、申告期限や加算税への対応を急ぐ必要がある場合などは、同じ進め方になるとは限りません。

なお、上記の税額には、延滞税や加算税を含めていません。

財産調査の完了後に遺産分割を成立させた

2027年4月、金融機関、証券会社、非上場会社への確認が終わり、父の財産調査が完了しました。

3人は、最終的な相続財産2億円を前提に、遺産分割の話合いを行いました。

2027年6月15日、次の内容で遺産分割が成立しました。

相続人 取得した財産 取得額
長男 賃貸不動産4,500万円、非上場株式3,000万円 7,500万円
長女 自宅土地・建物5,000万円、定期預金1,500万円 6,500万円
次女 当初判明の上場株式2,500万円、預貯金2,000万円、後から判明した上場株式1,500万円 6,000万円
合計 - 2億円

長男は、以前から管理を手伝っていた賃貸不動産と、父が保有していた非上場株式を取得しました。

長女は、自宅土地・建物と定期預金を取得しました。

次女は、換金しやすい上場株式と預貯金を取得しました。

後から判明した財産を含めて全体を分けたため、既に分割した財産の取得者を変更する必要はありませんでした。

遺産分割後、長男は追加納付、長女と次女は更正の請求をした

未分割の修正申告では、3人がそれぞれ3分の1を取得したものとして、1人820万円を納付していました。

遺産分割後は、実際の取得額に基づいて各相続人の税額を再計算します。

相続人 最終取得額 分割後税額 修正申告までの納付額 差額・手続
長男 7,500万円 922万5,000円 820万円 102万5,000円を追加納付
長女 6,500万円 799万5,000円 820万円 20万5,000円を更正の請求
次女 6,000万円 738万円 820万円 82万円を更正の請求
合計 2億円 2,460万円 2,460万円 -

長男は、法定相続分相当額より多い7,500万円を取得したため、税額が増えました。

長女と次女は、未分割の修正申告時に納付した820万円より分割後税額が少なくなったため、更正の請求を行いました。

3人は、2027年7月10日に、長男の修正申告と追加納付、長女と次女の更正の請求を行いました。

長男の追加納付額102万5,000円と、長女・次女の減額合計102万5,000円は一致します。

家族全体の相続税2,460万円は変わりませんが、実際の取得額に合わせて3人の負担額を調整したのです。

財産調査から分割後の手続までの時系列

日付 出来事
2026年1月20日 父が死亡
2026年11月20日 判明済み財産1億4,000万円で未分割申告・納付
2026年12月5日 未確認の金融機関の郵便物を発見
2026年12月25日 定期預金1,500万円を確認
2027年1月25日 証券口座の上場株式1,500万円を確認
2027年3月10日 非上場株式3,000万円の評価額を確定
2027年3月25日 後から判明した6,000万円をまとめて修正申告・納付
2027年4月 財産調査が完了
2027年6月15日 遺産分割が成立
2027年7月10日 長男が追加の修正申告・納付、長女と次女が更正の請求

財産調査では一つの資料から別の財産が見つかることがある

今回のケースでは、父宛ての郵便物を確認したことが、申告に含めていない定期預金を見つけるきっかけになりました。

その後、過去の取引履歴や郵便物を確認することで、証券口座と非上場株式の存在も判明しました。

財産調査では、次のような資料を相互に確認することがあります。

  • 預貯金通帳
  • 残高証明書
  • 取引履歴
  • 証券会社からの取引報告書
  • 配当金の支払通知書
  • 確定申告書
  • 固定資産税の納税通知書
  • 金融機関や会社からの郵便物
  • 株主名簿や会社の決算書

一つの資料だけで、すべての財産が判明するとは限りません。

通帳の入出金から証券会社との取引が分かることもあれば、配当金の通知から非上場株式の保有が分かることもあります。

申告期限までに調査が終わらない場合は、判明している財産を申告しつつ、未確認事項と確認方法を整理して調査を続ける必要があります。

この事例から分かること

相続人間に争いがなくても、財産調査が終わらなければ遺産分割を確定できないことがあります。

判明している財産だけを先に分割することもできますが、後から高額な財産が見つかった場合、既に分割した財産まで動かして公平を取り直そうとすると、相続人間の贈与や譲渡として扱われる可能性があります。

今回のケースでは、その可能性を避けるため、財産調査が終わるまで全体を未分割のままにしました。

また、財産が順次見つかった場合でも、必ず財産ごとに修正申告を繰り返すわけではありません。

本件では、税務署から照会や調査を受けていない状況で残りの財産調査を続け、非上場株式の評価額まで確定した後、6,000万円をまとめて1回の修正申告に反映しました。

その後、財産調査が完了してから遺産分割を成立させ、実際の取得額に応じて、長男は追加納付、長女と次女は更正の請求を行いました。

未分割申告は、手続の終わりではありません。

財産調査、修正申告、遺産分割、分割後の税額調整までを、一つの流れとして管理することが重要です。