遺産分割前の賃貸物件から入る家賃は誰の所得?――相続人3人で家賃と修繕費を分けて計算した事例

父が亡くなった後も、父名義だった賃貸物件には入居者が住み続け、家賃が入ってきました。この事例の中心は、父の死亡後の家賃について、誰が所得税を申告するかです。遺産分割はまとまらず、長男が家賃の入金と建物の管理を担当します。翌年には屋根の修繕も必要になりました。

家賃は長男の口座に入り、修繕費もその口座から支払われました。しかし、入金と支払を管理した人だけが不動産所得を申告するわけではありません。母、長男、長女は未分割期間の家賃と経費をそれぞれの相続分で計算しました。父の死亡時の財産にかかる相続税は、別の申告として期限内に対応します。

※相続人、日付、金額、工事内容は、未分割の賃貸不動産に関する所得税と相続税の関係を説明するためのモデルケースです。死亡時点の未収家賃・前受家賃、敷金返還債務、借入金、ほかの債務や葬式費用はないものとします。土地と建物の金額は賃貸状況を踏まえた相続税評価額とし、小規模宅地等の特例は適用しません。

父が亡くなっても賃貸物件の取得者は決まらなかった

父は2025年10月20日に亡くなりました。相続人は母、長男、長女の3人で、全員が同日に父の死亡を知りました。遺言はありません。

父は土地と建物を所有し、建物を入居者に賃貸していました。相続人は賃貸を続けることにしましたが、誰が土地と建物を取得するかについて合意できません。父の預金も含め、申告期限まで遺産はすべて未分割のままでした。

父が死亡時に残した財産相続税評価額申告期限時点の状態
賃貸建物の敷地5,000万円取得者は未決定
賃貸建物1,500万円取得者は未決定
預金1,500万円取得者は未決定
合計8,000万円全額が未分割

死亡時点の財産を把握することと、死亡後に入る家賃を管理することは、別の作業です。三人はまず、父が残した財産と、相続開始後に発生する賃貸収支を分けて記録しました。

長男が家賃を受け取り、建物の管理を担当した

賃貸契約は父の死亡後も続きました。入居者への連絡や管理会社とのやり取りを一本化するため、三人は長男が管理を担当し、家賃を長男名義の管理口座で受け取ることにしました。

2026年の家賃は月55万円、年間660万円です。ただし、長男の口座に振り込まれたからといって、賃貸物件を長男が取得したわけではありません。長男が全額を自分の不動産所得として申告することにもなりません。

2026年の管理口座の主な動き物件全体の金額この事例での位置付け
入居者からの家賃660万円長男の口座でまとめて受領
屋根の修繕費96万円管理口座から支払
管理費等84万円管理口座から支払

三人は通帳の入出金だけで判断せず、家賃明細、管理会社の精算書、工事の見積書と請求書を確認できるようにしました。

父の所得は準確定申告として別に確認した

父自身の所得税については、2025年1月1日から死亡した日までの所得を確認します。申告が必要な場合、相続人は父の準確定申告を行います。この事例で三人が父の死亡を知った日は2025年10月20日なので、その翌日から4か月以内という期限を確認しました。

父の死亡後から2025年末までに生じた賃貸収支は、父の生前の所得にまとめません。相続人それぞれの2025年分の所得として、2026年分とは別に確認します。

また、実際の事案では、死亡前に支払期日が来ていた未収家賃や前受家賃などがないか、賃貸契約と入金記録を確認する必要があります。このモデルケースでは、死亡時点にそれらの残高がないものとして、以下では2026年の1年間の計算を示します。

屋根の工事が修繕費に当たるか確認した

2026年、賃貸建物の屋根に雨漏りが生じました。三人は管理会社を通じて工事を依頼し、損傷した部分を従前と同等の仕様で復旧しました。工事費96万円は、長男が管理する口座から支払いました。

この事例では、見積書と工事記録から、工事は既存の屋根の原状回復であり、建物の性能を高めたり使用可能期間を延ばしたりする改良を含まないと確認できたものとします。そのため、96万円を2026年分の修繕費として計算します。

支払口座の名義だけで、96万円すべてを長男の必要経費にはしません。家賃を共同相続人に配分するのと合わせ、この賃貸に係る経費も各人の相続分に応じて計算します。

工事の名称が「修繕」でも、内容によっては資産価値を高める資本的支出として扱う部分があります。実際の申告では、工事内容を確認してから修繕費かどうかを判断します。

三人は2026年分の不動産所得をそれぞれ計算した

賃貸物件が未分割の間、その物件から生じる所得は各共同相続人に相続分に応じて帰属します。母の法定相続分は2分の1、長男と長女はそれぞれ4分の1です。

建物の減価償却費は、父の資料と取得価額などを確認して計算する必要があります。このモデルケースでは、2026年分の減価償却費を物件全体で120万円と置きます。

2026年分の賃貸収支物件全体
家賃収入660万円
屋根の修繕費▲96万円
管理費等▲84万円
減価償却費▲120万円
不動産所得360万円

物件全体の不動産所得360万円を、三人について次のように計算しました。

相続人法定相続分家賃収入必要経費の合計不動産所得
母2分の1330万円150万円180万円
長男4分の1165万円75万円90万円
長女4分の1165万円75万円90万円
合計—660万円300万円360万円

ここに示した180万円・90万円・90万円は、各人の不動産所得の金額であり、所得税の納付額ではありません。各人が確定申告を要するか、所得税額がいくらになるかは、給与などのほかの所得や控除も含めて確認します。

相続税は父の死亡時の財産を基に期限内に申告した

ここまでの家賃と経費は、相続人の所得税の話です。これとは別に、父が死亡時に残した財産について相続税を申告します。三人の相続税の申告・納付期限は、2026年8月20日です。賃貸物件や預金の分け方が決まっていなくても、期限は延びません。

相続税は父が死亡時に残した財産を基に計算します。この事例の相続税評価額は、土地5,000万円、建物1,500万円、預金1,500万円の合計8,000万円です。父の死亡後に生じた2026年の家賃660万円や修繕費96万円を、そのまま死亡時の遺産額に加減する計算ではありません。

相続税の総額を求める計算金額
課税価格の合計8,000万円
基礎控除:3,000万円+600万円×3人▲4,800万円
課税遺産総額3,200万円

課税遺産総額3,200万円を法定相続分で仮に分けると、母が1,600万円、長男と長女が各800万円です。これに税率を適用すると、母について190万円、長男と長女について各80万円となり、相続税の総額は350万円です。

次に、未分割の財産を各人が法定相続分で取得したものとして、350万円を配分しました。

相続人申告上の取得額相続税の総額の配分当初の税額
母4,000万円2分の1175万円
長男2,000万円4分の187万5,000円
長女2,000万円4分の187万5,000円
合計8,000万円—350万円

財産がすべて未分割のため、この当初申告では母の配偶者の税額軽減を適用しません。母は分割後に適用を検討できるよう、「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付しました。三人はそれぞれの当初の税額を期限内に納付します。

相続税の総額350万円と、2026年分の不動産所得360万円は、対象とする時点も計算の目的も異なります。金額が近くても、互いに差し引くものではありません。

後日物件の取得者が決まっても、過去の家賃は付け替えなかった

2026年末になっても遺産分割は成立していませんでした。三人は、2026年分の賃貸収支を母180万円、長男90万円、長女90万円の不動産所得として扱い、それぞれのほかの所得も含めて確定申告の要否を判断しました。

2027年に賃貸物件を取得する人が決まったとしても、その人が2026年の家賃収入をすべて申告し直すわけではありません。未分割だった2026年分の所得の帰属は、後日の遺産分割によって遡って変わらないためです。分割成立後に発生する家賃については、その時点からの権利関係に沿って確認します。

一方、相続税は、遺産分割が成立した後に実際の取得財産を基に税額を見直す場合があります。所得税では過去の家賃の帰属を変えず、相続税では分割後の取得内容を確認するという違いがあります。

この事例のポイント

未分割の賃貸物件から入る家賃は、管理口座の名義だけで申告する人を決めません。この事例では長男が家賃660万円を受け取り、修繕費96万円を支払いましたが、三人は物件全体の収入と経費を確認し、それぞれの相続分に応じて2026年分の不動産所得を計算しました。

屋根の工事については、支払額や「修繕」という名称だけで判断せず、原状回復か改良かを工事内容から確認しました。管理を担当する人が、契約、入金、支払、工事内容の資料を残しておくことが各人の申告につながります。

この事例で中心となるのは、未分割期間の家賃と経費を各相続人の所得税でどう扱うかです。父の準確定申告と、死亡時の財産に対する相続税も、対象期間と計算を分けて進めます。後日の遺産分割が、未分割期間の家賃所得を遡って取得者一人の所得に変えるわけではありません。

参考情報

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