長男と連絡が取れないまま、母と長女が相続税を期限内に申告した事例
父の死後、長男に連絡しても返答がありませんでした。母と長女は父の財産を調べましたが、長男を交えた遺産分割協議はできないまま、相続税の申告期限が近づきます。
二人は財産を未分割として税額を計算し、母と長女の申告と納付を期限内に済ませました。長男も相続人として計算に含めましたが、二人の申告によって長男の申告まで済んだわけではありません。
※相続人、日付、金額は手続と税額の関係を説明するためのモデルケースです。債務、葬式費用、生前贈与などはないものとし、土地に小規模宅地等の特例は適用しません。
父の死亡後、長男から返答がなかった
父は2025年10月20日に亡くなりました。相続人は母、長女、長男の3人です。母と長女は同日に父の死亡を知りました。
長男とは以前から交流が少なく、母と長女は把握している住所へ手紙を送り、電話とメールでも連絡を試みました。しかし、申告期限が近づいても返答はありません。二人は連絡を試みた日と方法を記録しましたが、長男が父の死亡をいつ知ったかまでは確認できませんでした。
父の財産として確認できたのは、預金6,000万円と土地6,000万円です。
| 財産 | 相続税評価額 |
|---|---|
| 預金 | 6,000万円 |
| 土地 | 6,000万円 |
| 合計 | 1億2,000万円 |
預金も土地も取得者は決まっていません。母と長女だけで長男の取得分を決めることはできないため、すべて未分割の財産として申告を準備します。
遺産分割を待っても申告期限は延びない
母と長女の相続税の申告・納付期限は、2026年8月20日です。長男から返答がないことを理由に、二人の期限が延びるわけではありません。
母と長女は預金の残高・取引資料と土地の評価資料を集め、確認できた財産を基に申告書を作成しました。財産の分け方が決まっていない以上、預金を二人が取得済みであるかのようには扱いません。
なお、長男が父の死亡を知った日は確認できていません。この事例では、母と長女の期限を示す一方、長男本人の申告期限については断定しません。
未分割の財産を法定相続分で計算した
母の法定相続分は2分の1、長女と長男はそれぞれ4分の1です。法定相続人は3人なので、基礎控除は4,800万円となります。
| 相続税の総額の計算 | 金額 |
|---|---|
| 財産の合計 | 1億2,000万円 |
| 基礎控除:3,000万円+600万円×3人 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 7,200万円 |
| 相続税の総額 | 960万円 |
課税遺産総額7,200万円を法定相続分で仮に分けると、母が3,600万円、長女と長男が各1,800万円です。それぞれに相続税の税率を適用して計算した相続税の総額は960万円となります。
次に、未分割の財産を法定相続分で取得したものとして、960万円を各人に配分しました。
| 相続人 | 法定相続分 | 未分割として計算した取得額 | 当初の税額 |
|---|---|---|---|
| 母 | 2分の1 | 6,000万円 | 480万円 |
| 長女 | 4分の1 | 3,000万円 | 240万円 |
| 長男 | 4分の1 | 3,000万円 | 240万円 |
| 合計 | — | 1億2,000万円 | 960万円 |
この表の取得額は、遺産分割によって実際に取得した額ではありません。また、長男の240万円はモデル上の計算額であり、長男が申告・納付したことを示すものではありません。
母と長女だけを共同提出者として申告した
母と長女は、二人を共同提出者とする申告書を期限内に提出しました。母は480万円、長女は240万円を、それぞれ期限内に納付しました。
長男は相続人として財産と税額の計算に含まれます。しかし、長男が共同で提出する意思は確認できていません。申告書に長男の氏名や計算額を参考として示す場合でも、それは長男本人の申告にはなりません。
| 相続人 | この事例で確認できた申告・納付の状態 |
|---|---|
| 母 | 長女と共同で期限内に申告し、480万円を納付 |
| 長女 | 母と共同で期限内に申告し、240万円を納付 |
| 長男 | 本人の申告・納付の有無は確認できていない |
母と長女は、自分たちの申告が済んだことと、長男の申告状況が分からないことを分けて管理しました。
母の配偶者の税額軽減は当初申告で使わなかった
配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などによって実際に取得した財産を基に計算します。この事例では財産がすべて未分割のため、母の当初申告ではその軽減を適用せず、480万円を納付しました。
母は、後日分割が成立した場合に特例の適用を検討できるよう、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しました。見込書を提出しただけで、母の税額が直ちに減るわけではありません。
分割が成立した後、母が実際に取得した財産や必要な手続を確認し、税額を見直します。
申告後も長男との連絡と遺産分割が残った
母と長女が期限内に申告した時点でも、長男からの返答はなく、預金と土地の分け方は決まっていません。長男本人が申告・納付したかどうかも確認できていません。
今後、長男と連絡が取れて遺産分割が成立すれば、実際の取得額を基に税額を計算し直します。当初の申告より税額が増える人は修正申告を、減る人は更正の請求を検討します。更正の請求には、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内という期限があります。
長男との連絡が取れない状態が続く場合の遺産分割手続も、別に検討が必要です。この事例では、返答がないというだけで長男を不在者と断定したり、母と長女だけで分割が成立したことにしたりはしません。
長男の住所が分かっていても話し合いに応じない場合は、遺産分割調停を検討します。所在自体が分からない場合には、不在者財産管理人を選任して進める方法があります。母と長女は、長男の状況に応じた具体的な進め方を弁護士に相談します。
この事例のポイント
相続人の一人と連絡が取れず、遺産分割ができなくても、連絡の取れる相続人は未分割として自分たちの相続税申告と納付を進められます。この事例では、母と長女が期限内の手続を済ませました。
ただし、母と長女の共同申告は長男の申告を兼ねません。また、財産が未分割の段階で、母の税額を配偶者の税額軽減によってゼロとすることもできません。
誰の申告・納付を確認できたか、どの財産が未分割かを分けて記録しておくことが、その後の遺産分割と税額の見直しにつながります。