CASE14 · 納税資金

遺産分割が終わらず納税資金が足りない|預金の払戻しと借入れで期限内に納付した事例

父の預金から相続税を払う予定でも、遺産分割が終わらず、必要なお金を用意できないことがあります。このケースの転機は、銀行で払い戻せる金額を確認した段階で、入金を待たずに不足分の借入相談を始めたことでした。分割の決着を待たずに納付を終え、分割後には借入れも完済しました。

※この記事は、制度資料・実務資料など複数の資料をもとに再構成したモデルケースです。人物・金融機関名は仮称で、金額・日付・借入条件は説明用の設定です。特定の実案件や金融商品の実績を示すものではありません。

父の預金から払うつもりだった相続税

父が亡くなったのは、2025年7月15日でした。母は既に亡くなっており、相続人は長男・長女・次男の3人です。3人とも、その日に父の死亡を知りました。

遺産は、相続税評価額で合計9,000万円の土地3筆と、A銀行の普通預金3,000万円。長女は、父の預金を受け取れば相続税を払えると考えていました。

ところが、土地を誰が取得するか、分割の際に土地をいくらと評価するかについて、協議がまとまりません。預金も全体の配分を調整するために必要とされ、預金だけ先に分ける合意もできていませんでした。

預金は存在していても、長女が納税のために自由に使える状態ではありません。分割の話合いが続くうちに、相続税の期限が近づいていました。

家族と財産このケースの状況
相続人長男・長女・次男の3人
主な遺産土地9,000万円、普通預金3,000万円
分割の状況土地の取得者・評価額が決まらず、預金の先行分割も未合意
長女の納税額310万円
申告・納付期限2026年5月15日

税額は、遺言・特別受益・生前贈与加算・控除対象債務等がなく、小規模宅地等の特例や税額控除も適用しない前提です。

最初に確認したのは、分割の見通しより納付までの残り時間だった

2026年4月3日、納期限まで残り6週間となったところで、税理士と長女が納税資金を確認しました。税務資料はおおむね揃っており、長女の相続税は310万円と見込まれていました。

長女が生活予備資金や諸費用とは別に、納税に充てられる自己資金は100万円。不足額は210万円でした。長男と次男は自分の納税資金を確保していましたが、長女の不足分を立て替える話は決まっていません。

相続税の申告・納付期限は、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内です。今回の期限は5月15日で、分割の話合いが続いていることを理由に自動的に延びるものではありません。

そこで、分割の見通しとは別に、「5月15日までに長女が使える現金をどう確保するか」を整理しました。長女は「父の預金を引き出したい」という相談から、「5月15日までに不足する210万円をどう確保するか」という相談へ進むことができました。

銀行に相談すると、単独で払い戻せる金額が分かった

4月6日、長女はA銀行へ連絡しました。確認したのは、遺産分割前の預金払戻し制度を利用できるか、いくら受け取れるか、どの書類が必要か、手続にどの程度の時間がかかるか、という点です。

この制度では、一定の範囲で、相続人が単独で預金の払戻しを受けられます。金額は相続開始時の預金額と法定相続分をもとに計算し、同一金融機関では相続人1人につき150万円が上限となります。

長女の場合、計算式による額は150万円を超えていたため、今回確保できる金額は150万円でした。

長女は必要な相続関係書類や本人確認書類等を揃え、4月10日に提出しました。ただし、この段階では、まだ現金を受け取ったわけではありません。書類確認を経た入金は4月24日となりました。

これは今回のモデル上の経過です。必要書類や処理期間は金融機関・案件によって異なるため、申込みをすればすぐに使えるとは考えず、取引金融機関への確認が必要です。

150万円を受け取れても、60万円が足りなかった

払戻しで150万円を確保できても、自己資金100万円と合わせて250万円。相続税310万円に対して、60万円が足りません。

納税に必要な金額自己資金預金の払戻し残る不足額
310万円100万円150万円60万円

長女は、払戻しの入金を待ってから次の方法を探すのではなく、4月8日の時点で取引先のB銀行へ借入相談を始めました。4月10日には、収入や納税見込額などの審査資料も提出しました。

預金を先に分ける合意は成立しておらず、そこから期限内に追加資金を得られる見通しはありませんでした。また、このケースでは遺産分割の調停・審判を申し立てておらず、家庭裁判所の仮払いを今回の納付手段にはしませんでした。

税理士は、借入れの相談と並行して、延納の要件や申請期限も整理しました。借入れが実行される前から、資金確保が確実になったとは扱わなかったのです。

資金確保の方法全体については、遺産分割前に相続税の納税資金を確保する方法でも説明しています。

分割が長引いても返せる条件で借入れを検討した

B銀行との相談で、長女が確認したのは、借りられる金額だけではありません。相続税の納付に使えること、金利、毎月の返済額、入金予定日、繰上返済の条件も確認しました。

4月27日に確認できた条件は、借入額60万円、固定金利年6.0%、24回の返済です。毎月の返済は元金25,000円に利息を加える方式で、初回は28,057円でした。契約・保証・繰上返済に関する追加負担がないことも確認しました。

長女は、給与等から生活費や通常の支出を差し引くと、毎月5万円程度を返済等に充てられる状況でした。そのため、分割が長引いても、毎月約2万8,000円の返済を自分の収入から続けられると判断しました。

分割が成立すれば預金を受け取れる見込みはありましたが、その時期はまだ決まっていません。「遺産が入ったら返す」という予定だけに頼らず、分割前の返済も確認したことが、借入れを選ぶ前提でした。

延納についても検討しましたが、今回は期限前の借入実行と返済可能性を確認できたため、借入れによる納付を選びました。延納より借入れの方が常に有利という意味ではありません。

長女は4月28日に契約し、5月1日に60万円の入金を確認しました。

入金を確認し、申告と納付を終えた

5月1日、自己資金100万円、払戻金150万円、借入金60万円が揃い、納税用の310万円を確保できました。

税理士は、長女が先に受け取った150万円を含めて申告計算を整理しました。払戻しで預金残高が減ったからといって、死亡時の相続財産から150万円を除外するわけではありません。

税理士は、先に受け取った150万円と、残る未分割財産に対する長女の持分を整理し、二重計上や計上漏れがないか確認しました。その結果、長女の税額は、当初の見込みどおり310万円でした。

5月12日、税理士が申告書を電子申告し、長女は金融機関窓口で納付書による310万円の納付を行いました。領収証書を保管し、5月15日の期限前に申告・納付を終えました。

分割協議は、その時点でも続いていました。納付できたのは分割が早くまとまったためではなく、分割の決着を待つ間に資金の準備を進めたためです。

遺産分割後、先に受け取った預金と借入れを整理した

長女は6月1日から、給与等を原資に返済を始めました。6月から9月までの4回で元金10万円を返済し、借入残高は50万円となりました。

9月10日、相続人3人の遺産分割協議が成立しました。長男と次男がそれぞれ土地を取得し、長女は別の土地と預金を取得する内容です。

長女が取得する預金3,000万円には、先に払い戻した150万円も含まれます。そのため、分割後に新たに受け取る預金は2,850万円です。先に受け取った150万円は長女の取得分に織り込まれており、ほかの相続人へ別途返す必要はありませんでした。

9月14日に預金残額を受領した長女は、翌15日、残元金50万円とその時点の利息1,150円を支払い、完済しました。借入期間中の利息負担は、通常返済分を含めて合計12,527円でした。

税理士は最終分割後の取得内容も確認しました。今回は、各人の相続税評価額等の合計が4,000万円となり、特例などの条件も変わらなかったため、相続税は各310万円のままでした。分割による追加納付や還付は生じませんでした。

同じ状況なら、まず確認したいこと

今回、長女が期限内に納付できたのは、払戻し制度だけで資金が足りたからではありません。不足額を早く把握し、銀行の払戻しと借入手続を並行して進め、実際の入金まで確認したことがつながっています。

同じように、遺産はあるのに納税用の現金が足りない場合は、まず次の点を確認します。

  • 自分の申告・納付期限と、納税額の見込み
  • 生活資金や諸費用とは別に、納税へ使える自己資金
  • 相続預金の払戻しで確保できる金額と、入金までの見通し
  • 払戻し後にも残る不足額と、借入れ等の条件
  • 遺産分割が長引いた場合にも返済を続けられるか

預金の払戻しや融資、延納には、それぞれ条件があります。申込みや相談を始めたことと、期限までに納付できる状態になったことは分けて確認する必要があります。

長女は、預金の払戻しを申し込んだところで資金の準備を止めず、不足分の借入れ、着金の確認、納付まで進めました。その後も給与から返済を続け、分割成立後に完済しました。利息12,527円の負担は残りましたが、遺産分割の決着を待たずに納税を終えることができました。

参考資料:

遺産分割が終わらず、納税資金にお困りの方へ

申告・納付期限、税額の見込み、使える自己資金、預金の払戻しの状況など、現在分かっている範囲からご相談ください。税額・申告方法・納税資金の整理について、対応できる範囲をご案内します。

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